仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

文系大学院の博士課程に進もうと思うなら読むべき本~岡崎匡史『文系大学院生サバイバル』:その1~

<今回の目次>

1.レビュー本の著者の紹介と取り上げる理由

本日の記事は、茨の道の棘が刺さりながらも進む覚悟のある人、つまり文系大学院の博士課程に進学する人にぜひ、読んでおいて損はないよ!というガイドブック・レビューです。

 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

先週、執筆した上の記事の「3.指導教員を選ぶ時のポイント」の「3-3.弟子である院生、後輩研究者を大切にし、尊敬できる人間性のある先生を選ぼう」「3-3-1.指導教員の人間性は重要」以下の項目で、大いに引用させて頂いたのが、岡崎匡史氏の次のご著書です。

 

著者は、今は無き日本大学大学院総合科学研究科で政治学を専攻し、博士論文をもとに次の研究(学術)書を出版した、優秀な文系研究者です。

岡崎匡史『日本占領と宗教改革』 (学術叢書)学術出版会、2012年 

 

執筆者の私としては、著者には大変失礼だとは思いますが、日本では早慶より学部のレベルで言うと、一般的にランクがしたと言われる私立大学から研究者を目指す!その後、数々の困難を乗り越えながらアメリカに留学し、博士課程の基本在籍年数の3年間で博士学位を取得し、博論を出版までした上で、なかなか、書けない文系大学院の悲惨な内情を本書に書いても、日本の学術界に食い下がっている。そういう意味で、研究自技術においても、処世術に長けた最強の文系研究者ではないかと、私は尊敬の念を禁じ得ません。

 

その技術と処世術について、文系大学院の博士課程に進もうと考えている人には、あやかるだけでなく、実践してほしいところが多々あったので、改めてレビューを書くことに致しました。本書に関して導入部と中盤の前半をその1、留学先での実践編を含む後半をその2として、2回にわたってレビュー致します。さっそく、その1を始めましょう。

 

 

2.本書の内容紹介:その1

 2-1. 本書の目次と導入部(第1~3章)の概要

まず、 本書の目次(ベースは上記Amazon商品リンクの「目次」)をざっと見てみましょう。そして、本書の導入部分について、書きます。

 

はじめに

第1章 大学院への「入院」
第2章 希望のない国
第3章 博士号への道
第4章 留学のすすめ
第5章 英語攻略法
第6章 留学対策編
第7章 技術編と現代科学
第8章 博士論文作成術
第9章 投稿論文術
第10章 学問と政治

おわりに

本文で紹介した著作及び参考文献

 

第1~2章は文系大学院生になるリスクについて、個別具体的に、詳らかに書いてあります。特に第2章に挙がっている節は日本の文系研究者の現実が書かれていて、特に重要なので、3つともピックアップさせて頂く。

 ・希望のない国

 ・「奨学金」はただのローンだ

 ・無惨・非常勤講師

「希望のない国」は、日本がいかに国家として教育を軽視した政策をしているかという導入部分。

「「奨学金」はただのローンだ」の節では、奨学金というより、学資ローンの重たい返済義務を背負った文系博士号取得者の就職が決まらない悲惨さを説いています(ちなみに、アナーキズム専攻の政治学者・栗原康氏は博士課程満期取得退学状態で、「大学の奨学金で635万円の借金をせおっている」(2014~2015年)とのこと)この借金、コンビニや塾講師の口で返済していっている人たち、私の身近の「ノラ博士」に沢山おります。

「無惨・非常勤講師」は、まず、博士号取得ホヤホヤの人で「非常勤講師」(アルバイト講師)に就けるのは、運が良いほうであると一文目に出てきます(ちなみに、これを書いている私は、博士号取得後一年目に大学の非常勤講師になれなかった人)。なれたらなれたで、

正規雇用ではないので、雇用保険に入れない。病気になる余裕すらない。(本書p.40より)

という現実があります。私の周りで小耳にはさんだことでは、とある語学の非常勤講師の先生が二十年近く務めた大学の授業の帰り、体を壊して入院後、危篤状態になってあっという間に亡くなったそうですが、雇用保険に入れなかったため、残されたご家族が医療費用を出されたそうです。なお、非常勤講師から正規雇用へのサバイバルの厳しさは、次の記事をご参照ください。

 ・藤田孝典 「年収200万円博士号女性の夢は「任期なし常勤」(「 毎日新聞」)

  (*2016年12月現在、有料記事化。無料会員登録で閲覧可らしい)

その上、その勤務先の大学からは、お悔み等の言葉は一言もなかったとか。また、「ポスドク」(ポストドクター)という、「名ばかり研究員」の「惨たらしい目に遭わされている」人たちの実態を伝える円城塔氏(東京大学で博士号取得後、作家に転身した2012年に芥川賞を受賞した元研究者)のエッセイを紹介。その実態は、ここでは筆舌に尽くしがたいため、以下にそのエッセイへのリンクを貼らせて代わりとします。

 ・円城塔「ポスドクからポストポストポスドクへ」

  (*2016.12.4の20:30までCiniiメンテナンス後より、アクセス可能)

 

「第3章 博士号への道」の節「博士になることを拒んだ夏目漱石」(本書p.49)のところで、文学系の博士号の取得に時間がかかり、世界でも稀な「論文博士」なる種類の博士号ができてしまったのか、その契機が当時の文部省が博士号を授与しようとし、それを拒んだ夏目漱石の文章を引用して(この文章は日本の中高のどちらかの国語の現代文の教科書にも出てくるものあり)、丁寧に書かれています。なお、「論文博士って何?」とか「博士号にも種類があるの?」という読者の方は、次の拙ブログ記事をご参照のこと。

 ・大学院に行きたいと思ったら知るべき「初歩」のこと~大学院の進学システムと就活~ - 仲見満月の研究室

 第3章の後半「指導教授を見極めよう!」から「七〇歳の教授よりあなたのほうが学問ができる」の節は、本記事の冒頭のリンク記事「3.指導教員を選ぶ時のポイント」の「3-3.弟子である院生、後輩研究者を大切にし、尊敬できる人間性のある先生を選ぼう」「3-3-1.指導教員の人間性は重要」等のところで一部、引用させていただいています。そちらをご覧ください。

 

 2-2. 中盤:アメリカ留学のすすめから留学準備の勉強実践(第4~6章)

中盤は、次の3つです。

 

第4章 留学のすすめ
第5章 英語攻略法
第6章 留学対策編

 

「第4章 留学のすすめ」は、留学をするメリット、行くなら世界の学問の覇権国であるアメリカへ行くこと(人口の多い中国のインテリ層さえ英語で話すから)、そして留学して異文化理解というのは幻想であるということを学ぶこと。中盤の入り口に当たる第4章をまとめると、このようなことが言えます。

 

「第5章 英語攻略法」は、留学する人に向けた英語勉強方法を伝授。使える道具は使えばよいという姿勢とその内容を列挙していきましょう。

 ・文法に沿った堅実な丸暗記英語で信頼を得るべし。

 ・英単語量を増やすために『ジーニアス英和辞典』を単語帳に使う。

@naka3_3dsuki

ルソーの『エミール』は、教育者には必読だそうです(本書p.86)あと、ジーニアス英和辞典は、単語帳として使用せよ!と

  壁や鏡にその英単語と日本語訳を書いた付箋を貼って毎日見て覚えよう、など。

 ・英単語を覚えるために、こんな辞典を使ってこういう風に覚えよう。

  「大辞典の活用 高価だが段違いの情報量」

  「語源辞典   「ことば」の歴史も学ぶ」

  「活用辞典   表現したい内容を的確に選ぶ」

  「和英辞典   手に取ってみて損はない」

  「情報辞典   文化の背景を知る」

 ・正確な文法を参考書で学び、用いた文章を得て、課題で信頼されよう。

 ・「 リスニング=スピーキング」では、英語音源を速く再生して聞き取ろう。

  そして、自分も早口で英語を話す練習をしよう。

 ・Youtube等にアップされているアメリカの大学の授業を聞いてみよう。

 ・教材に投資を厭わなかった福沢諭吉の姿勢を見習うべし。

 

「第6章 留学対策編」は、第5章の方法で蓄えた英語力を駆使して、

 ・英語力を示す基準となるTOEFL

 ・英語による学力テストGRE

 ・志望理由などを書く「エッセイ」

 ・英語で自分をアメリカの大学に推してもらうための推薦状

に備えることをポイントを締めて、解説されています。私が苦労しそうだと知ったのは、留学対策編の推薦状を、日本の所属大学院でゲットするということ。今の日本の大学教員は、さらっと英語で推薦状を自筆できるほどの時間はありません。本書にも書かれていますが、自分で英語の推薦書を書いてきなさい、というのは当たり前に言われると思います。なので、私としては、英語に長けた外国人の先生(何なら英語の非常勤講師の先生)を必要人数捕まえて、推薦状を書いていただくのが現実的だと思いました。

 

さて、いよいよ第7章ではアメリカの留学先での実践的な研究の技術や学習法の磨き方を伝授されています。が、第7章は、その語の第8・9章の日本での論文執筆のベースにも繋がってくる話ですので、「その2」の方で扱いたいと思います。

 

(その1終わり。その2↓に続く)

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