仲見満月の研究室

元人文系のなかみ博士が研究業界の問題を考えたり、本や映画のレビューをしたりするブログ

よく知られていない学芸員の話 その2:学芸員の仕事となり方について~美術館を中心として~('20.5.22、2時台にリンク切れ確認と #リンク貼り直し 済み)

2字<その2の内容>

5.その1の内容について

本記事は、下の記事の続編となります。

naka3-3dsuki.hatenablog.com

【2017.4.20_1310更新】よく知られていない学芸員の話 その1:山本地方創生担当大臣の「学芸員はがん」発言から - 仲見満月の研究室

↑その1の記事では、4月16日に滋賀県主催の地方創生セミナーで、山本幸三地方創生相が、

文化財観光の振興をめぐり見学者への案内方法やイベント活用が十分でないことを指摘し、「一番がんなのは学芸員。普通の観光マインドが全くない。この連中を一掃しないと」と発言した。

「学芸員はがん。連中を一掃しないと」 山本地方創生相:朝日新聞デジタル、以下ニュース記事①)

こと(翌17日に謝罪と撤回)を通じて、学芸員の仕事は一般の人たちに知られていないよね?ということを意識させらたことを書きました。その上で、本ブログに合わせて主に人文・社会学系の学芸員について、その仕事となり方について、今回のその2のほうで紹介していこうと思います。 

 

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 (イメージ画像:ルーブル美術館と月)

 

 

6.学芸員の仕事とは?

 6-1.人文・社会学系の学芸員の仕事の概要

その1の記事にも引用した朝日新聞のニュース記事①に載っている学芸員の仕事とは、

学芸員は博物館法で定められた専門職員で、資料の収集や保管、展示、調査研究などを担う。

「学芸員はがん。連中を一掃しないと」 山本地方創生相:朝日新聞デジタル、ニュース記事①)

というものです。この他にも、展示品の運搬指示と設置に携わったり、展示品の解説文章や図録に載せる論文を執筆したり、別の施設の特別展に展示内容に関係する時代の戦士のコスプレしていってギャラリートークをしたり、新しい収蔵品の購入が決まったら保存方法の打ち合わせや受け入れの準備をしたり、裏方仕事が多く、一般の来館者にはその仕事を知られることは少ないようです。

 

引き続き、調べていたところ、主に人文学系の栃木県立美術館、および那須野が原博物館の学芸員の仕事が掲載されている次のオンライン記事を見つけました↓

  ● 「学芸員どんな人? : 地域 : 読売新聞」(YOMIURI ONLINE、'20.5.22、2時台、リンク切れ確認済み)
www.yomiuri.co.jp

 

ここでは、まず、読売新聞のオンライン記事の栃木県立美術館学芸員(職名は特別研究員)の杉村浩哉さんの仕事を紹介させて戴きます。

 

 6-2.栃木県立美術館学芸員の仕事

杉村さんが学芸員になるきっかけとなったのは、就職活動中に、栃木県立美術館が「デイビッド・ナッシュという彫刻家を奥日光に招待し、そこで制作されたものを展示しているのを知ったこと」でした。杉村さんは、地元林業に携わっている人と外国の作家の交流に感動し、このような仕事がしたいと志望したそうです。就職後は、もともと、「近いイギリスの古い風景画の最高傑作や、現代アートの巨匠の作品」に関心が近かった杉村さんは、バブルがはじけて予算が厳しくなってから、やっと栃木県内や地元のものの方向に目を向けるようになったそうです。予算が厳しくなって、やっと作品に目を向けるようになったというのは、現実的ですが、ありそうな話です。

 

さて、地元に目を向け始めた杉村さん。例えば、偶然知った油彩画家・清水登之の調査をしたところ、アメリカやフランスで評価されただけでなく、非常にユニークな人物だということが分かったそうです。「従軍画家として戦意高揚を図る絵を多く描かされた人」であった清水登之について、従軍の様子や逸話を日記を読んで研究。こうした「一人の芸術家にひかれて調査を進める経験が」、別の栃木県出身の画家・関谷富貴の発掘にも繋がったことがありました。なお、読売新聞オンラインの記事にはありませんが、栃木県立美術館 - 企画展 [関谷富貴の世界]が開催されたようです。このように、知られていなかった郷土の画家を見つけ出し、紹介するのも美術館の学芸員の仕事です。

 

学芸員の仕事には、展示内容に合わせた展示方法やイベントを行い、来館者を楽しませることも含まれています。杉村さんが実行した工夫でウケたのは、2014年1~3月の日本近代洋画展での「その名も「栃木の春は、鮭二本」。

近代洋画と言われても、お堅くて嫌になってしまう。そこで、高橋由一のサケの絵を2枚並べました。何の脈絡もありません。ただ、「なんだこれ」と気にかけてもらえます。新巻きザケの旬の時期でもあり、来場者は前年の95%増でした。

(学芸員どんな人? : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)'20.5.22、2時台、リンク切れ確認済み )

どうも、高橋由一は私の中では「鮭の画家」のイメージが定着していて、今回のオンライン記事を読むと、脈絡もなくポーンと鮭の絵が二枚並べているところに出くわすと、驚いて動けなくなると思います。その年の夏には、栃木県小山市出身のタムラサトル氏の体験型展示を設置。同期の学芸員と、その夏の遊びに行く先に入れてほしいと願いを込めて「真夏の遊園地」と名付けました。「真夏の遊園地」のほうも、好評だったそうです。

 

以上のように、栃木県立美術館学芸員は、

  • 地元出身の画家について、日記や作品等の調査研究を行い、発掘する
  • 発掘した地元出身の画家の企画展を行う
  • 季節や時期に合わせて展示品の位置を工夫して来館者を驚かせ、あるいは体験型の展示には合う名前を付け、とにかく来館者を楽しませる

ということが挙げられます。

 

栃木県美術館の例は、地元出身の画家を意識したものでした。その他、私が学芸員課程の授業で見に行った妖怪画に関する巡回するタイプの特別展では、巡回する土地の美術館や博物館の企画展として、その土地の怪談を絵本風にしたイラスト、地元の妖怪が出てくる絵巻物、妖怪が出るという池や山を描き込んだ地図を展示するところもありました。特に、民俗学資料館や歴史博物館だと、地元の歴史上の有名な人物にまつわる説話と絡めた展示を作り、来館者に楽しんでもらえるように工夫するところもあるようです。

 

 6-3.東京都現代美術館学芸員の仕事

 続いては、栃木県の隣の東京都の美術館の学芸員の仕事について↓

日本のミュージアムの現状に疑問を感じ、ニューヨークの大学院へ留学を決意した著者。日本で「雑芸員」をしてた時の状態に始まり、次はアメリカの大学院へ留学するのに必要なTOEFLの点数獲得のための勉強法を披露。英語はクリアしたものの、どこの大学院に留学するか、選ぶ段階の迷い。いざ渡米し、住むところを決めたものの、ルームメイトとうまくいかなくて、交替してもらったことも、赤裸々に書かれています。実際の大学院の授業では、ディスカッションが中心でした。著者は、こうして博物館の経営を学びながら、日米の文化の違い、そこから発生する差を冷静に見つめます。著者自身は、日本のデパート美術館について関心が高く、そのあたりを大学院でやろうとしていたようです。

 

留学中、何と2001年のアメリ同時多発テロに遭遇。騒然とするニューヨークの街で、大学院が休みとなり、著者は日本に戻ることを考えます。

 

実は、学生時代に私が学芸員課程の授業レポートに使った本でした。エッセイということで、学芸員として博物館を運営する側の視点を知ることができ、そのような意味で非常に有り難い本でした。また、人文科学系で、博物館学に興味があって、留学を考えている人には、少し古いため、次の岡崎匡史氏の本との併読をおすすめ致します。

文系大学院の博士課程に進もうと思うなら読むべき本~岡崎匡史『文系大学院生サバイバル』:その1~ - 仲見満月の研究室

文系大学院の博士課程に進もうと思うなら読むべき本~岡崎匡史『文系大学院生サバイバル』:その2~ - 仲見満月の研究室

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【2017.4.20_1310更新】よく知られていない学芸員の話 その1:山本地方創生担当大臣の「学芸員はがん」発言から

<その1の内容>

1.はじめに~山本地方創生担当大臣の2017年4月16日の発言の経緯~

16日の夜、Twitterのタイムライン上に、次のニュースの見出しが並び、大きなショックを受けました。

 ①「学芸員はがん。連中を一掃しないと」 山本地方創生相:朝日新聞デジタル

 ②山本地方創生相「一番のがんは学芸員」と発言 : 政治 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

 

経緯として、「滋賀県主催の地方創生セミナーで、文化財観光の振興をめぐり見学者への案内方法やイベント活用が十分でないこと」を山本地方創生担当大臣は指摘し、セミナーでの講演後、「滋賀県長浜市藤井勇治市長から「インバウンド観光振興について助言を」と質問された際に」、「学芸員はがん」だというよう発言を行い(①の朝日新聞の記事)、「「(地方創生の)アイデアを出しても、学芸員は『文化財が大変なことになる』と全部反対する。観光立国を目指すのにマインドを変えてもらわないといけない、との趣旨だった」と説明した。」(②の読売新聞の記事)ということでした。

 

翌17日、山本地方創生相「ガンは学芸員」発言を陳謝(日本テレビ系(NNN)) - Yahoo!ニュースでは、山本地方創生相が発言を謝罪し、撤回したことが報じられました。

 

私としては、昨夜の地方創生セミナーの編集済みの動画、および上記NNNの謝罪動画しか見ていないため、事実として山本地方創生相が「学芸員はがん」と16日の時点で判断できる材料は、持っていません。ただし、①・②の各ニュース記事の内容を読むと、地方創生相が、観光立国を目指すため、博物館や美術館、文化財を活用する立場から、

  • 長浜市の藤井市長に上記の質問をされた際、「外国の有名博物館が改装した際のことを引き合いに出し、「学芸員が抵抗したが全員クビにして大改装が実現した結果、大成功した」などとも述べた。」こと(①のニュース記事)
  • 文化財に指定されると、部屋で水や火が使えず、お花もお茶もできない。バカげたことが行われている」と指摘。「学芸員は自分たちがわかっていればいい、わからなければ(観光客は)来なくてもいいよというのが顕著」(②のニュース記事)

ということを言い、ロイター通信が伝えるところによると、

山本氏は終了後、報道陣に「二条城(京都市)でも当時の生活を再現しようとしたら学芸員が反対した。彼らだけの文化財にしてしまっては資源が生きない」と指摘。「『一掃』は言い過ぎたが、文化財はプロだけのものではない。学芸員も観光マインドを持ってほしい」と釈明した。

(山本地方創生相「がんは学芸員」 | ロイター)

とのことでした。

 

 

2.実際の学芸員は、どんな仕事をしているのか?

学芸員はがん」と言ってないにしても、山本地方創生相は学芸員の仕事をよく把握されていない、という印象を私は持ちました。学芸員とは、「博物館法で定められた専門職員で、資料の収集や保管、展示、調査研究などを担う」(①のニュース記事、詳細は後述)人たちです。①のニュース記事の中に簡潔に纏められていますが、これらすべてが学芸員の仕事であり、展示品の運搬指示と設置に携わったり、展示品の解説文章や図録に載せる論文を執筆したりもします。更に、ツイートしましたように、

仲見満月@経歴「真っ白」博士‏ @naka3_3dsuki

その昔、マヤ文明の特別展を見に行った時、特別展に収蔵品を貸し出したか、協力したかの日本の博物館の学芸員の方が、マヤのとある都市国家の戦士のコスプレをされ、展示を案内するイベントがありました。頭に独特の被り物をし、武器のレプリカも握りしめ、軽快に語る姿は、聞き手も笑っていた。

この人、仕事でもあるんでしょうが、日々の雑務に終われていて、なかなか、人前に出てコスプレをして、好きなマヤ文明のことを語れる機会は、あんまり、なかったんだな?と感じました。当時から、学芸員は薄給で、過労なのが当たり前のイメージが私にはあり、目の前の学芸員の方に同情しました。

という訳で、学芸員は基本的に何でもこなすオールマイティな「雑芸員」と皮肉られたり、自虐したり、することがあります。①のニュース記事が最後に伝えたように、

愛知県内の美術館に勤務する学芸員は、美術館も博物館も、どうしたら来館してもらえるかを真剣に考えている学芸員は多いと反論する。

(「学芸員はがん。連中を一掃しないと」 山本地方創生相:朝日新聞デジタル)

ということで、山本地方創生担当大臣が知らないだけで、学芸員は「観光マインド」かはともかく、自分にできるなりの範囲で来館者に楽しんでもらえるような、工夫をしているところはあります。 

(施設によって、教育普及やイベント企画の部門が学芸員の仕事とは分かれているところあり。また、下記のように学芸員は多忙かつ、様々な制約の中でイベントを実行しにくいところがある。詳しくは、よく知られていない学芸員の話 その2:学芸員の仕事となり方について~美術館を中心として~ - 仲見満月の研究室をご参照のこと)

 

 

3.今回の山本地方創生担当大臣の発言へのネット上でのツッコミ(2017.4.20_1310更新)

ところで、山本大臣の発言には、ネット上でツッコミが入れられているところがありました。

  1. 「外国の有名博物館が改装した際のことを引き合いに出し、「学芸員が抵抗したが全員クビにして大改装が実現した結果、大成功した」などとも述べた。」こと(①のニュース記事)
  2. 文化財に指定されると、部屋で水や火が使えず、お花もお茶もできない。バカげたことが行われている」と指摘。「学芸員は自分たちがわかっていればいい、わからなければ(観光客は)来なくてもいいよというのが顕著」(②のニュース記事)

の2点です。各点へのツッコミは、次のtogetterまとめに根拠が挙げられていました↓

 

③「学芸員はがん」発言に対する反応まとめ

togetter.com

 1の外国の有名博物館の大改装については、③のまとめによると、「オリンピック開催決定の4年前の2001年に完成し」た大英博物館の改装が、単に「1997年までそこにあった大英図書館がセントパンクラスの新館に移った」という出来事のことを指しているのでは、という指摘がありました。この出来事について、「「観光マインドがない学芸員は全部首にした」事実があったかは分かりません。」というツイートがあり、後日、ツイート主の方は「ロンドンオリンピックの文化プログラムを含むイギリスの文化政策については研究が進んでいるので、明日調べてみます。」と仰っていて、報告を待ちたいです。

(2017.4.19_1020追記)

フォロワーさんに教えて頂いた情報によりますと、追加で調べられた加治屋健司氏のお調べでは、2001~2004年ごろ、もともと赤字体質だった大英博物館について、マネージング・ディレクターや館長の交替がりながら、館運営の現代化、人員削減、コスト削減等が試みられたようです。その前には、1997年まであった大英図書館がセントパンクラスの新館に移った関係で、「「大英博物館の中の壁を取っ払って、真ん中に人が集まるところをつくって、そこからいろんな部門に行くというように全部やり替えました」というような、大英博物館の大改装が行われたそうで、この時にはロンドンオリンピックの開催が決定されておらず、この大改装はロンドンオリンピックとは無関係だった、というご指摘のツイートがありました。いずれにしても、ロンドンオリンピックにともなう文化政策についての追加調査に関して、このツイート主の方は、「観光マインド」の話は出てこないと書かれておられました(詳細は、この文章のリンク先の連続ツイートをご覧ください)。

 

もう一つ、「さてはこの大臣半可にデービッド・アトキンソンの著作を読んだな。」という指摘があり、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議ワーキンググループ」において有識者として出席し」たアトキンソン氏のワーキンググループでの発言、および氏の著作『新・観光立国論』の内容が引き合いに出され、③のまとめにおいて、分析がなされていました。 

結論から言うと、アトキンソン氏の主張をまとめたツイートによれば「氏は、文化財を活かすにはその文化財の詳細かつ丁寧な説明、現状の貧弱な保存状況を解消する整備、空っぽの部屋だけでなく、中に納める展示物、伝統芸能の充実もまた求めている。 これらは学芸員の知識をフルに活かすことが求められる仕事であり、観光マインドは必要ない。」(「学芸員はがん」発言に対する反応まとめ - Togetterまとめ)とのこと。ツイート主の方の指摘では、山本大臣とアトキンソン氏の主張は逆であるとのことでした。

 

続きの詳細な分析は、③のまとめをご覧ください。

(2017.4.19追記_1030更新)

本記事へのコメント者の方からこの件について情報を頂き、「学芸員はがん」発言に対する反応まとめ - Togetterまとめ調査で調べられたことをツイートでされていたトリオンファン氏が、新しいツイートで、そもそも今回の学芸員への批判はアトキンソン氏の主張そのものであった可能性が高い、という考えに改められていたことを確認致しました(詳細は、この文章のリンク先を参照ください)。

山本大臣の発言には、ネット上でツッコミ1と2については、本記事へのコメントをされた 通りすがりですが さんに新しい情報を頂きました。「学芸員はがん」発言に対する反応まとめ - Togetterまとめ山本地方創生相「学芸員はがん」発言の背景 - TogetterまとめおよびTwitter上で続いている各ツイート主の方々の議論を追って頂けたらと思います。ここで、ツッコミ1と2については、一旦、区切りをつけて終わりとさせて下さい。

 

 

 

2つ目の発言内容に関する指摘は、そもそも、文化財保護法、それから「内部まで公開し,学芸員立会いのもとでお茶会したいと学芸員が思っても,内部まで多数の人が入るには建築基準法や消防法に適合してないと,駄目なんですよね.」「学芸員はがん」発言に対する反応まとめ - Togetterまとめというツイートから、そもそも、山本大臣は国会議員で立法に携わる立場なのに、文化財に関する知識が足りていない!というものがありました。

ちなみに、私は二条城に数回行ったことがありまして、撮影はもちろん、インクの出る各種筆記用具やシャーペン・鉛筆によるスケッチも禁止です。これ全部、二条城で公開している場所の保護のためです。私が学芸員課程の授業で見学に行った際、インクで畳や襖を汚したり、シャーペンや鉛筆の鋭利な芯で襖や障子に穴をあけたりするのを防ぐため、だと一緒に行った日本史学専攻の先輩から聞きました。似たようなことは、座学でこの授業担当者から聞いています。

 

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(イメージ画像:二条城の唐門)

 

なお、お茶や生け花を重要文化財の建築物の中で行う、という話が出ていますが、法律の他、建設から百年以上経つ建物の傷みやすい畳の部屋に、道具を入れたスーツケースを持ち込む日本人の来館者がいて、スーツケースの重みで畳が凹んでしまったことがあったそうです。畳の入れ替えにも、場所の保存のために一枚だけでなく全部かえないといけない部屋があり、お金がかかるし、イベントを行う前に告知しておいてもトラブルは起こることがあり、現場は大変なんですよ。

特に、外国人観光客の家族老若男女でやって来た方々を相手に、以上のような注意事項を伝えるのは、文化の差が大きいため、英語にしても、中国語にしても、説明はできても難しいもんなのです。また畳については、椅子文化の長い都市部の中国系の人たちは、基本的に足を曲げて坐るのが困難なんです。ガイドをした時、日本の居酒屋でお座敷席に通された際、正坐でなくとも足が痛そうでした。韓国の人たちはオンドルのある暖かい住宅になれていて、冬に完済を訪れて宿泊した時、オンドルのある住宅に比べ、夏の湿気対策で寒い構造のホテルに泊まって慣れず、京都の伝統建築実習で体調を崩し、回れなかった人たちがいました。

 

そういう感じで、法律を厳守した上で、更に文化財を傷めないように外国人観光客の方々に、慣れない日本の伝統文化のイベントを実行するのは、現地の日本人側にも、外国人観光客の方々にとっても、負担を強いる場合があるんです。

 

(2017.4.19追記_1220更新)

山本大臣の発言背景について、より詳細な調査・議論のtogetterまとめが出ていました。およみ頂けたらと思います。

togetter.com

 

(2017.4.20追記_1310更新)

ハフィントンポストの取材で、山本大臣の「大英博物館学芸員を全部クビにした」という発言に対し、大英博物館は「明らかな事実誤認」と全面否定しました。更に大英博物館の大改装とロンドンオリンピックは関係ない。」という返答があったとのこと↓

 

 

4.まとめ

発端は、山本大臣の「学芸員はがん」の発言でしたが、この一言で、私は学芸員の仕事があまりにも知られていない、またはある程度は知られていても様々な現場があることが広く伝わっていないことを、改めて認識させられました。Twitterやこちら↓ 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

の中で、私は図書館司書の資格課程を受講していたことを話しました。実際、司書の資格、それから教員免許を所持していますが、実は、先述のとおり、学芸員資格も所持しております。図書館司書、教員免許、そして学芸員資格は、人文科学系の研究者が所持しているケースの多い資格です。

 

これらの資格を持って仕事をする職業では、学校教員は一般の人たちにも身近で、よく知られていると思います。しかし、図書館司書、そして今回の学芸員の仕事は、山本大臣の発言をもとにじゃ牛すると、一般的にあまり知られていない職業だと思われます。この点は、③のまとめにおいて指摘されていました。司書も、学芸員も、実は来館者の行けない、裏の作業室で蔵書検索システムに新刊書の登録をしていたり、新しい収蔵品の購入が決まったら保存方法の打ち合わせや受け入れの準備をしたり、裏方仕事が多く、一般の来館者にはその仕事を知られることは少ないようです。

(ちなみに、展示会場の片隅にスーツ姿で立っている監視員や、展示の解説員は、学芸員とは別の人の場合が多く、最近は特にボランティアに頼むことがあるようです) 

 

そういうわけで、先日の図書館の司書関係の職に続き、今回は学芸員の仕事やなり方について、主に人文・社会学系の分野を扱う「文科」学芸員をメインに、続編のその2では紹介していこうと考えております。前置きが長くなりましたが、その1はここでお終いです。

 

(その2へ続く↓)

【ニュース】「一橋大から香港科技大に移ります」という職業研究者の話と「院二年」のmstdn.jp管理者の奮闘

<4月半ばのニュース>

1.話題が多くて、まとめて取り上げることにしました

2017年4月半ばの今週、こちらの本の話題↓ 

naka3-3dsuki.hatenablog.com

に加えて、本記事のタイトルに入れた2つのニュースが出てきまして、記事を1つずつ、立てるには時間がないため、まとめて取り上げることに致しました。

 

①「一橋大から香港科技大に移ります」川口康平氏の話

blogos.com

 

②「院二年」のmstdn.jp管理者の奮闘

togetter.com

 

 

2.ニュース①:「一橋大から香港科技大に移ります」川口康平氏の話

一橋大学経済学研究科の経済学の川口康平氏が、オファーを好条件で出してきた香港科学技術大学ビジネススクールへの異動を決めた、というお話です。ご本人がツイートであれこれ、一橋大学と香港科学技術大学の待遇差をされており、その内容が下のtogetterまとめになっていました↓

togetter.com

 

これまでの一橋大学の待遇は、現在の講師職で

  • 給与は昨年,各種手当を全部ひっくるめて634万円
  • 四学期制で五限目の開始時間が17:10になったことで,この時間に開催されているセミナーに乳幼児を抱える研究者の出席が難しくなった.

(給与が段違い 一橋大から香港科技大に移ります - Togetterまとめより)

だそうです。給与はともかく、子育てをする環境としては、厳しいなと私も感じました。一方の香港科学技術大学は、同じくテニュアトラックAssistant Professor(≒講師?)で、

  • オファーはというと,USD144K,日本円で1500-1600万円
  • 大学内にファカルティハウスがあって,年収の10%を支払えば,100平米ぐらいの3LDKに召使い部屋と駐車場が付いた部屋を借りられるそうです.
  • しかも,キャンパス内に保育所が完備されており,子育てもし易いようです.

ということで、一橋大学の時よりも、給与は2倍以上、おまけに年収の1割である150~160万円を払えば、学内の上記設備のファカルティハウスが借りられる。更に、キャンパス内に保育所完備とくれば、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス経済学部に留学経験のある川口氏なら、 サクッと決断して移っても、何ら不思議ではないでしょう。特に、香港はクイーンズイングリッシュが話されていますから、言語的な部分でも、適応が早そうです。

 

この香港科学技術大学は、川口氏曰く

香港科技大は近年シンガポール国立大学の後塵を拝しつつあるものの長らく経済学ではアジア太平洋地域のトップ校で,大学総合ランクでも2015年のTHEでは東大を上回っています.とはいえ,研究環境面で一橋が特別負けているとは思いません,じゃあ何が違うのかというと,あれですね,給料です.

(給与が段違い 一橋大から香港科技大に移ります - Togetterまとめ)

ということで、アジア太平洋地域で東大をランキングで抜かす大学、かつ待遇がよければ、そりゃ、香港の大学に出ていくでしょう。

 

この話題を受けて、書かれたのが先のブロゴスのニュース記事です↓

大学教員の報酬、それで充分? 一橋大講師の年収額にネット「うちの会社のヒラ社員と変わらんじゃんか」

ニュース記事には、川口氏のツイートへの反応が取り上げられており、ロンドンの先の

同大学は経済学の研究で世界トップレベルの教育機関と言われている。そうした大学で研鑽を積んだ研究者が、一橋大学の講師職では年収600万程度という事実に、ネットユーザーから驚きの声が上がっている。

”「ウチの会社のヒラ社員と変わらんじゃんか」
「634???安っ!」”

2015年度の同大学講師の年間給与は、最低額が約595万円、最高額が約803万円、平均が約693万円と発表されている。634万円は、同大学の水準として特別安いわけではないようだ。

(大学教員の報酬、それで充分? 一橋大講師の年収額にネット「うちの会社のヒラ社員と変わらんじゃんか」)

という話がされています。先のtogetterでは、

いろいろあると思うので、経済系の先生の一事例であまり一般化はしないほうがいいよね。 

(給与が段違い 一橋大から香港科技大に移ります - Togetterまとめ)

という指摘があるものの、支払う給与に倍以上の差があれば、海外に移れる優秀な研究者は、どんどん日本を出ていってしまうでしょう。

 

今回の話は、経済学の研究者の話でしたが、今後は別分野の日本の研究者についても、待遇次第で海外に出ていく人は増えていくでしょう、現に、日本でずっと専業非常勤だったとある任期付き助教先生は、最初の正規の職に就いたのが東南アジアの大学でした。英語と中国語が話せる方だったため、適応が早かったそうです。

 

私の個人的な意見としては、以前に書いた【追記】人文学の「価値」を「正面から問うこと」の一連の議論について - 仲見満月の研究室で書いたように、人文学について、このままでは日本で消滅しても不思議ではない、と感じていて、もし日本の研究者が海外に渡るのなら、それはそれで何らかの形で日本の研究が残る可能性があると考えています。悪くないんじゃないでしょうか?

 

Twitter上で見かけた意見には、先のブロゴスのニュース記事のコメント欄を読むと、よくも悪くも、日本の一般の人たちが(職業)研究者をどう見ているかがよく分かるそうです。ぜひ、ご覧ください。

 

 

3.ニュース②:「院二年」のmstdn.jp管理者の奮闘

今週に入って、話題をさらったポストTwitterとも言われていたSNSこと、マストドン (ミニブログ) - Wikipediaです。

 

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詳細は、Mastodon(マストドン)ってTwitterのなんなのさ! 使い方の解説や、早くも開催された非公式オフ会の情報が寄せられています - 週刊はてなブログを見て頂きましょう。あ、そうそう、マストドンは2017年4月16日現在、登録者およびインスタンス管理者ではアカウント削除・退会ができないようです。登録の際は気をつけてくださいね。

github.com

Mastodon(マストドン)のアカウントを削除する方法が用意されていない問題について

 

13日の午後、私が登録しようと日本語のインスタンス(サーバー)を探していたところ、日本のインスタンスで、最も登録者数の多いmstdn.jpが非常に重く、登録に時間がかかる状態になっていました(結局、登録はできなかった)。さて、どうしようかと、そこから一日ほど情報取集をしていたところ、何とmstdn.jpの管理者・ぬるかる氏の奮闘を伝えるtogetterを見つけました。それが、冒頭のtogetterまとめです。

mstdn.jp運営者のぬるかるさん、すっかり時のキツネに(支援先などまとめ) - Togetterまとめ

 

油揚げが好物で、②のまとめ1ページ目の情報では「院二年で、自鯖で運営しているらしい。」ということと、「支援,親の扶養外れない程度にお願いします」とぬるかる氏ご自身が発言さていました。この事実が本当なら、インスタンスの管理者として、非常に大変だと感じました…。

 

そのうち、mstdn.jpは人気が出すぎて、13日の23時台には登録者数が1万6000人を突破し、複数のMSのクラウド担当者の方に声をかけられ、自宅サーバーから、さくらのクラウドへ移転するというお知らせが出ました↓

togetter.com

 

そして14日の14時、さくらのクラウドへmstdn.jpが移行したようでした。この行こう宣言に対して、

ぬるかる氏の移行宣言を受けmstdn.jp鯖のローカルタイムラインが既に終わりゆく村と次の移住先に向け支度を始める遊牧民族みたいな感じになってる

(mstdn.jp運営者のぬるかるさん、すっかり時のキツネに(支援先などまとめ) - Togetterまとめ)

という言葉が飛び出すほどの「大移動」だったようで、まるで歴史的事件のその場に立ち合った気持ちになりました。まとめられているツイートを見ていても、最大4万人ほどの登録者のいるインスタンスを管理していたわけですから、現実の人口規模でいうと、自治体の中の大きめの町の町民が一気に移住するわけで、規模としてアカウントの登録し直しを考えただけでも、おおごとっちゃ、おおごとですね。

 

ひとまず、ぬかるさん、お疲れさまでした。管理者として、登録者が増え続ける自宅サーバーの様子を把握しながら、インスタンス新規登録者受付の調整をし、申し出てきたMSのクラウド担当者にTwitterで連絡をとり、さくらのクラウドへ移行する時にはTwitterでも移行宣言を出したんですから。これ、町役場の住民票登録の受理、自治体の移転、移転先の土地での移転宣言(Toot内容がリセットされると、アカウント登録し直してください、とか)、およびこの間にかかったメンテナンス等を含めて、様々な方々からご支援を受けつつも、さばききったわけです。

 

相当の知識と技術に加えて、状況判断ができなければ、できなかったでしょう。ここまでは、大学院生にしては、あっぱれ!としか言いようがないです。

 

これからのインスタンス管理を考えると、大学院生のようなので、こちらpixiv社がマストドンでpawoo.net運用開始 一方日本最大規模のmstdn.jpはデータがリセットされる - Togetterまとめで指摘する方がいらっしゃるように、ぬるかる氏自身が何かしらの運営法人を設立するとか、企業に売却するとか、安定したメンテナンスができるように何らかの方法を考えていかなければならないでしょう。

 

mstdn.jp運営者のぬるかるさん、すっかり時のキツネに(支援先などまとめ) (2ページ目) - Togetterまとめに「余談:Mastodonに望まれること」にも出ていましたが、mstdn.jpのサーバーは肥大化していくでしょうし、これからは法人がインスタンスを設立し、社員や従業員のアカウントを管理するようになっていくかもしれません。

 

私は引き続き、マストドンの動向を見続けようと思っております。

 

 

4.最後に

今回は、職業研究者の海外への転職に関する話、そして院生のmstdn.jp管理者が支援を受けつつ、自宅サーバーからさくらのクラウドへの移行への奮闘ぶりを、最大4万ほどの人口を抱えた町移転とその住民の移住をさばいた町役場(の職員)に喩えて紹介しました。

 

どちらも、今回は別のところから、べつのところへ移ることに関する話題でした。片方は現実世界、もう片方は電子世界での話で、偶然とはいえ、同時期にこのようなニュースが重なったことに、興味深さを感じずにはいられません。

 

そのようなわけで、今回は4月半ばに起こったニュース2件を紹介致しました。

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